※この記事はネタバレを含みます
ギルベルトからもらった「愛してる」の意味を理解するためにヴァイオレット・エヴァーガーデンは手紙の代筆をしている。テレビ版を通して「愛してる」を少しは理解したヴァイオレットがギルベルトを探し出して、「愛してる」を届けに行くのが劇場版の本筋である。
本作の主役は人の想いを届け繋げる「手紙」であるが、劇場版では街に電波塔が建設され電話が普及していくさなかにあり、手紙が少しずつ廃れていく未来が示唆される。
劇中では病気が重くもう助からない少年ユリスがヴァイオレットの依頼人として登場する。代筆の依頼自体はつつがなく終えるが、ユリスはいまの自分のやせ細った姿を見せたくない想いで面会を断った友人リュカに謝りたいという気持ちがあった。直接言えることは、言えるうちに自分の口で言った方が良いという言葉をヴァイオレットは残し、結果的には電話によってユリスは自分の姿を見せなくともリュカに謝ることができる。
電話は空間を超えて相手に声を、想いを届けることができる。
一方で、手紙は時間を超えて相手に想いを届けることができる。
病に伏せた少年ユリスは自分の死んだ後、手紙で家族に想いを届けた。そして、劇中で本筋とは別に展開されるずっと未来の話は、ヴァイオレットが代筆した手紙を見つけるところから駆動していく。見つけたのはアンの孫、デイジー。アンは母の死後、母がヴァイオレットに依頼した手紙を50年間毎年1通づつ受け取っていた(テレビ版10話)。この手紙自体も時間を超えて届く想いだが、デイジーもまた時間を超えてアンの母の想いを知ることになる。
また、作中で手紙が人の手から離れ風に乗っていくシーンが繰り返し描かれる。
手紙は特定の誰かに宛てるものであるが、紙媒体であるがゆえに時に秘匿性が失われてしまうことがある。特に、作中でヴァイオレットの代筆したものの多くは秘匿性は失われ他の誰かに公開されるものが多い。王女の公開恋文や、書物の写本、オペラの作詞、演劇の脚本など。劇場版では催事で使われる詞を書いている。そして、先ほどのアンの母の手紙も、第3者のデイジーによって開かれる。
他人に公開された想いは、本来の目的から変容し「物語」を創っていく。
人の想いを届ける手紙は時間を超え、秘匿性が失われ、「物語」になる。
劇中でギルベルトに「愛してる」を届けるヴァイオレットの手紙もまた、風に煽られギルベルトの手を離れていく。だからヴァイオレットも時間の流れの中で「物語」になっていくのだ。
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