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たまこラブストーリー -どこにでもあるような物語を描く-

たまこラブストーリー」はその名の通り北白川たまこの恋愛物語を描いた作品である。しかし、いわゆる「私の王子様との運命の出会い」だとか「数多の障害を乗り越えて結ばれるふたり」といったドラマチックな展開はない。「向かいに住む幼馴染の男の子に告白されて、応える。」ただそれだけの物語だ。


ただそれだけの物語を、たまこの気持ちの変化に寄り添って、丁寧に描くことで80分のフィルムに収めている。
まず、たまこのいつもの日常が描かれる。もちが大好きで頭の中が年中もちだらけ。バトン部の活動中でも、銭湯に入っているときでも、新作おもちのアイディアを考える「変態もちむすめ」たまこの姿がある。そこには、向かいに住む幼馴染、もち蔵の姿もたまこの日常として存在している。
そして、たまこの日常を描いた次の日の帰り道、たまこがもち蔵に告白されるところから物語は動き始める。告白されたたまこは「かたじけねえ、かたじけねえ」とふしぎな言葉づかいをしながら、パニックのあまりその場から逃げてしまう。始めに描かれたいつもの日常では、バトンや糸電話などをたまこが上手くキャッチできない姿が描かれる。同じように、たまこは上手くもち蔵の気持ちも受け止められない。本作は時間を掛けて、たまこがもち蔵の気持ちを受け止めていくことが物語の本筋となる。

今までと違う世界 = たまこ

もち蔵から逃げてしまった翌日も、たまこはいつものように学校に行き、バトン部の活動をする。しかし、おもちは喉を通らず、バトンの両端にあるおもりがおもちに見えてしまう。そして、もち蔵と上手く目も合わせることができない。

「あんこは変わるの、怖い? 急に今までと違う世界になっちゃう、みたいな感じ」

物語中盤で妹のあんこにたまこはそう問いかける。
もち蔵に告白されても周りは何も変わってなどいないはずなのに、昨日までとは風景が変わってしまっている。一変した、というほど大げさではないが、たまこの心情の変化で変わった風景や空気感を、キャラクターのセリフや動き、背景の色使い、BGMなど様々なものを用いて本作は見事に表現している。

みんなにもあった、色んなこと

 また、もち蔵の気持ちを受け止める過程でたまこは両親の恋愛に思いを馳せる。そのきっかけは帰り道の商店街のシーンにある。たまこは店先で談笑する魚屋さん夫婦や、豆腐屋さんと花屋さん、お肉屋さん夫婦、そして向かいのもち蔵の両親の仲睦まじい姿を見て、たまこはふと漏らす。

「みんなにも色んなことがあったのかな」

ここでいう、色んな事とは「誰かが誰かを好きになって、告白して、応える。」ということである。たまこが今抱えている気持ちは、辺りを見渡すとそう珍しくもなく、商店街のみんなも、たまこの両親も通ってきた道なのだと知る。そして、たまこは父親が昔、母親に送った曲「こいのうた」を聴き始める。
これは同時に、この作品で描かれるたまこの物語は、何も特別でない色んな所に偏在している物語なのだと、観客に告げている。そんなどこにでも転がっているような物語をたまこの気持ちに寄り添って丁寧に描くことで80分のフィルムに収めることに成功しているのだ。

今日の一枚

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