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今更ながらの三体 感想 (ガッツリネタバレあります)

最近、色んな作品を読んだり観たりして、感動したりして作品に浸っている。それらの情動を何かレビューの形に落とし込んでいきたいとは思うものの、中々腰が上がらない。作品の切り口はそれなりに思いつく。それでも仔細を考えていくうちにまとまりがなくなって面倒くさくなってくる。そうやっているうちに何も書けなくなるのも、その時の感情がぼやけていくのも勿体ないので、気軽な感想記事を書いていきたい。

というわけで、初っ端に『三体』の感想を書いていく。
『三体』は中国SFとして話題の作品。原著から10年以上の時を経て、去年ようやく完結まで日本語訳版が観光された。Ⅱ部の黒暗森林のあたりからツイッターでもよく評判を見て気にはなっていたので、Ⅲ部が売りだされたタイミングで全巻購入していたものの、読み始めるのに半年、読み終えるのにさらに半年かかってしまったが、非常に面白く、読み終わった時に深いカタルシスを得られた。

このツイートの後にこまごま感想は書いたものの、改めてまとまった形で感想を書き留めておきたい。とはいえ『三体』は3部作全5巻の大スペクタクル長編であるため、思いつくままに書いていくと発散した文章になってしまうことが目に見えている。この記事では特に面白かったと感じたところ2点と、Ⅲ部の主人公である「程心(チェン・シン)」について書いていきたい。

特に面白かったところ1「空想科学の肉付け」

まずひとつ目の特に面白かったところは、空想科学のアイディアそれ自体と、その肉付けの仕方である。SFにおいて未来のテクノロジー描写、それはひとつ大きな見どころではある。
本作も数多のF作品と同様にたくさんの未来テクノロジーが開陳される。今はないテクノロジー、中にはトンデモ科学を含む、を想像することは夢があってそれだけでワクワクする。さらにそれら未来テクノロジーを説得力を持たせ描写やメカニズムの説明で「そんなものもあり得るかもしれない」と騙してくれるとさらに良い。
例えば、本作で登場する敵対文明は人類よりも遥かに進歩した文明である、そいつらはその発達したテクノロジーを使って地球に向かって素粒子レベルのスパイAIを送ってくる。このスパイAIを作るところは本作に描写される。冷静に考えればそんなバカなと思うようなとこが次々に展開されるが、その情景を細部まで描写することによって圧倒されてしまい、こいつらそういうことができるのだ、と説得されてしまう。
こういったトンデモ科学もあれば、Ⅱ部の下巻で出てくるような未来の電力インフラ描写は一部飛躍はあるが、現存のテクノロジーと地続きになっており、リアリティラインが保たれている。加えて、ここで本作の面白い点として特筆しておきたいのはテクノロジーがあることで変化した社会の描写が事細かに書いてあることだ。文章の中から作者が夢想している様子が伝わってきて、こちらの想像力を掻き立てる。

特に面白かったところ2「社会情勢の描写」

もうひとつ、特に面白かったところは、社会情勢の描写である。
本作は、数世紀後に地球にたどり着く敵対文明からの侵略を阻止することが物語の大筋である。この上にも書いたがこの敵対文明は地球を遥かに進歩したテクノロジーを持っているため、地球文明は来るべき時に備えて対抗策として世紀をまたぐ遠大なプロジェクトをいくつも立ち上げる。これらプロジェクトもまた、作者の独創的なアイディア、視点が盛り込まれており非常にワクワクする要素だ。しかし、数百年という単位を描く本作では、それらの思想は時代が移るごとに無情にも変化していく。時には風化し忘れ去られた末に楽観主義に取って代わられ、時には民衆の反感を買い、時には俗物的な政治に利用され...どこまでテクノロジーが発展しても、人間の寿命は100年ほど。そんな人の世で何世代をまたぐような遠大なプロジェクトも、どんなものも等しく陳腐なものに成り下がっていくさまは、本作の時間スケールの大きさと、諸行無常が感じられて非常に良い。
さらに、非常なことにそれら大プロジェクトがどんなに世の中に忘れ去られてしまっていても、当事者だけはプロジェクトによって取り返しのつかないほど人生を狂わされてしまってる、といういたたまれなさも本作の面白さであった。

程心について

本作は、Ⅰではナノマテリアル研究者の汪淼(ワン・ミャオ)、Ⅱ黒暗森林では社会学者の羅輯(ルオ・ジー)、Ⅲ死神永生では程心(チェン・シン)と主人公が変化する。また、サスペンスミステリー的要素の強いⅠ部、人類側と敵対文明とのコンゲームが繰り広げられるⅡ部、とハードSFの土台の上でそれぞれ違ったジャンルの味が楽しめるのも面白い。私自身はどこが一番好きか?と言われれば、最後に深い読後感を与えてくれた私はⅢ部がお気に入りだ。
しかし、Ⅲ部の主人公・程心は「三体 程心」と検索使用すると、「三体 程心 嫌い」だとか「三体 程心 無能」とサジェストされる。とは言え、程心は国連惑星防衛理事会戦略情報局(PIA)技術企画センター室長補佐という長い肩書を持ち<階梯計画>の中心人物になるなど優秀な人物ではある。しかし、前2部の2人と比べてしまうと、程心は凡庸な善人であることが目立つ。善人と書くと特段欠点のように見えないが、程心の凡庸な善は人類の命運を握る状況を人ひとりが背負うには荷が重い。ゆえに程心は未熟な選択をして、人類全体の未来を翻弄させることとなる。中でも、雲天明とトマス・ウェイドは特に過酷な運命を背負わされ、Ⅲ部の中でも強く印象に残る。作中繰り返し過ちを犯してしまう程心に対して、私も読んでいる間あまり好意を抱けなかったが、物語が終末に向かうにつれて程心という凡庸な善人を主人公に置いたことにどこか納得できるものがあった。
Ⅲ部では、物語の終わりが近づくにつれて時間的にも空間的にもスケールは際限なく大きくなり、最後には宇宙全体の終末までたどり着く。こうなると、もう人類の及ぶところはなくただ成り行きに従って振り回されるのみである。そうなったときに、ただ事象を羅列していくだけでは物語の色彩は一気に失われてしまう。そこでこの展開に色を与えるために、本作は程心の情感を込めた。つまり、人智の及ばぬ壮大な終末を平凡な程心の視点から描くことで、深い余韻を残して物語を閉じたのだ、と。ふとそう感じると、運命に振り回されて世界の終末をまで見届けた程心のことも悪くないと、そう思えたのだ。

おわりに

とこんな感じに文章のオチも考えずにてきとーにつらつら書きたいことだけ書き殴って、満足したら締めるという方向で。しかし、感情を出した文章を書くのを意識的にできるタイプではないので、レビューっぽい文章の感想というどっちつかず感もあるが、とりあえず当分は何か書きたい欲求に従って駄文を生成していこうと思う。

今日の一枚


これは段々になっている川の一部を画角の狭いレンズで切り取ったところ。現像でシャドウを思いきり落として、水の流れだけを抜き出した。元画像からかなり加工しているが、表現したいものができたので結構好きな写真