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パラノマサイト FILE23 本所七不思議 -ADVゲームで描く物語体験とは?-

『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』(以下、『パラノマサイト』)とは、スクウェア・エニックスより2023年3月9日にリリースされたテキストADVゲーム。
舞台は昭和後期の墨田区。タイトルの「パラノマ」とは「超常的な」を意味するパラノーマルからとられており、同地区で古くから伝わる怪談”本所七不思議”にまつわる、ある”秘術”の噂と同時に巻き起こる連続怪事件の謎をめぐる物語だ。

こだわりのビジュアル

本作の導入をプレイしてまず調和のとれたビジュアルに目を瞠るものがあった。

薄ら寒い雰囲気になってきたからお酒の話をし始める興家くん

まず、画面全体にノイズが乗ったような効果がされており、古い映像のような表現だ。また、興家(右の青年)の襟元あたりに注目してもらえると古いブラウン管で見られるような細かな色ズレが乗っている。また、上の画像は夜なので少しわかりづらいが、背景、キャラクターの色彩も全体的に褪せた色合いに統一されており、昭和レトロな質感が醸し出されている。

加えて、こうした演出はメニュー画面にもみられる。メニュー画面を開くとまず曲面の画面に画像を映したような、ブラウン管を模したような画面になっている。他にも、走査線のようなものもあったりと、細かいところだが、ひとつひとつが”昭和後期”が舞台の”ホラー”の雰囲気にマッチしたビジュアルに統一されている。
このようなビジュアル面は物語を彩る額縁のようなもので、多少粗さがあっても、特にストーリやシナリオ構成が肝となるテキストADVというジャンルにおいては作品として成立する。しかし、こういった部分が堅実に作り上げられているだけで十分に丁寧に作られた作品だというのがうかがえる。

ドラマのようなカメラワーク

この他に、『パラノマサイト』で面白いのはドラマ的なカメラワークが多用されている点だ。

例えば、上の画像のシーンのように前景に映る人物をアップにして表情を隠して、前景に映る人物の心情の想像を掻き立てられているようなカットになっている。その他にも、カメラワークやカットのつなぎかたで映像効果を狙った演出が全編に渡って使用されており、ゲームというよりもドラマを鑑賞しているような味わいが強い作品になっている。
このような演出はテキストADVでもあまり見られない。というのも、テキストADVではプレイヤー≒主人公という体裁をとり主人公の主観で語られることが多いため、カメラも主人公の主観視点に固定されるからである。しかし、『パラノマサイト』は複数の視点をザッピングするような形で物語を読み進めるため、プレイヤー≒主人公という図式は成り立たず、よりいっそう第3者視点でドラマを鑑賞している味わいが強くなっている。

ここで、ドラマのようなカメラワークを使用した画期的なゲームとしては『メタルギアソリッド』が思いつく人も多いだろう。確かに、ゲーム一般で見ると、技術の進化、3DCGの進化により、特にRPGのジャンルではイベントシーンにおいてカメラワークを意識して作られている作品も多い。

テキストADVとゲームプレイ

ここで、すこし話を脱線させて、テキストADVのジャンルとしての立ち位置について考えてみたい。
例えば、テキストADVは先ほどストーリーやシナリオ構成が肝になると書いた。とは言え、他のゲームジャンルでシナリオが肝にならないというわけではない。むしろ、これまで物語性がほとんどなかったジャンルにも、物語性を少し付与させることでゲームの世界観に広がりを持たせるのが今般のゲームの主流にも思える。では、物語を語るのにテキストADVというジャンルをわざわざを選択する理由とは何だろうか。テキストADVはゲーム性が薄いと思われがちだ。ゲーム性というのも定義の曖昧な言葉なので、ここではプレイヤーの操作量がをあまり他のゲームと比べて少ないくらいの意味合いで捉えておこう。ともあれ、ゲームジャンルとしてはプレイヤーの介入の余地が少なく、むしろ小説やマンガ、ドラマなどのその他映像作品のような受動的なメディアの方が性質は近いと言ってもいいだろう。しかしながら、それらのメディアと大きく違うのは、逆説的になるがやはりゲームであるという点だ。ゲームであるから物語の中にプレイヤーが介入できる。つまり、体験するメディアということだ。


もっとも単純な話では言うと、例えばストーリーチャートの選択がある。上記の画像はクリア後の画面で全て解放されているため少々分かりづらいが(大きなネタバレにならない程度に配慮はしている)、『パラノマサイト』ではストーリーを見る順番、誰のストーリーから追っていくかをプレイヤーが選ぶことができる。とは言え、他のストーリーを進めていかないと全て解放されていかないため、完全に自由というわけではないが、プレイヤーの選択にストーリー構成がある程度委ねられているという例だ。その他にも、バッドエンドと真エンドへの分岐点を選択するのもプレイヤー自身だ。これは結局、どっちも見れば関係ないという意見もあるだろうが、どっちを最初に選び、何を感じたかはプレイヤーひとりひとりの、個の体験になる。テキストADVは基本的に受動的に思えるジャンルだからこそ、プレイヤーの介入がエッセンスとして効いてくる。

つまり、先ほどの『メタルギアソリッド』を比較に出して語るならば、『メタルギアソリッド』ではゲームプレイの中にドラマのような映像表現を巧みに取り入れた作品と言うならば、テキストADVはドラマのような物語体験の中にゲームプレイというエッセンスを取り入れているジャンルである。そして『パラノマサイト』もまた、このエッセンスを絶妙な匙加減で取り入れてきたウェルメイドな作品なのだ。

今日の一枚


みんな大好き黒鈴ミヲちゃん