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『プロペラオペラ:犬村小六著』 架空ファンタジー戦記ライトノベル紹介

「飛空士」シリーズ 全世界130万部突破!!! 「恋と空戦」の犬村小六帰還!!!


小学館 ガガガ文庫HP プロペラオペラ特設サイトより

と大きなポップでガガガ文庫から刊行されているシリーズがこの『プロペラオペラ』である。本作は、「太平洋戦争」をモチーフに描かれた戦記物、ライトノベルの中でもかなり特異な作品である。とは言え、あくまでモチーフ。そのまま「太平洋戦争」を舞台にしているわけではなく、史実をもとにのファンタジー要素を取り入れた全く新しいドラマが描かれる。
 ここではこの架空ファンタジー戦記ともいえる本作の魅力を簡単に3つほど紹介したい。

魅力①空戦描写

 まず、プロペラオペラを架空ファンタジーたらしめているのは、飛行艦艇という兵科である。プロペラオペラの世界では高度1200~1220mに浮遊圏というものが存在する。浮遊層では浮遊石と呼ばれる繭型の巨大な岩石のような物質が浮かんでおり、この浮遊石に船体を懸吊索というもので吊り下げた構造をしたものが飛行艦艇である。
 飛行艦艇は、海に浮かぶ艦船をそのまま空に飛ばしたのような兵科だが、浮遊石は浮遊圏にしか浮くことができないため、飛行艦艇は高度を上げることも下げることもできない。そのうえ、構造上、浮遊石と船体を繋ぐ懸吊索は命綱そのものであり、ここを切られたらたちまち船体は地表に真っ逆さまである。航空機よりも機動力がなく、弱点が露出していて脆いように思われる飛行艦艇だが、この世界では浮遊圏に航空機の翼から揚力を奪うセラス粒子があるため、航空機は浮遊圏以上の高度を飛ぶことができない。そのため、飛行艦艇が実質的に最高高度を誇る兵科であり、制空権を支配するため必要になる。
 本作の主人公・黒之クロトは作戦参謀として飛行艦艇に乗り、ガメリア軍の巨大戦艦クラスを相手と戦火を交える。
飛行艦艇という架空の兵科を交えた戦場だが、そこにはリアテリィを十分に感じられる。それは細部まで行き届いた緻密な設定交渉に加え、砲雷科や機関科など船体内部の描写も取りこぼさず、苛烈を極める戦場の声をきちんと描いているからだろう。

魅力②恋愛描写

 また、この作者は『とある飛空士への追憶』から続く『飛空士』シリーズや、前作の『やがて恋するヴィヴィ・レイン』などの代表作でも戦争と恋のラブロマンスが描かれてきた。今回もその要素は健在である。クロトは、戦争に勝って白乃宮イザヤを簒奪しようとするガメリアの大統領になる男カイトの策略を阻止するために軍人になる。そして、軍人となったクロトはイザヤが艦長として乗艦する飛行艦艇「伊吹」に配属され、同じ艦の船員の参謀と艦長として死線をかいくぐりながら、戦場の空を駆け抜けることになる。そこに『とある飛空士への追憶』を思い起こさせるような、まっさらな空の中で己に課せられた役目と想いの間で揺れ動くラブロマンスが描かれるのである。
 また、本作はこのロマンティックな状況も魅力だが、ツンデレ主人公のラブコメ描写も可愛げがあって面白い。
 この黒之クロトという人物は自分の才能に鼻にかける超がつくほどの自信家でプライドの高さは一級品である。イザヤを守るために軍人になったクロトが、同じ艦に乗り合わせるというのは物語のご都合のようにも思えるが、そうではない。クロトは傑出した頭脳をもち、軍司令部総長を始めとした高官たちとのコネを持つ。それらのコネを使い人事部に工作を使い配属先を決定させたのである。
 持てるものを使いこなし、いざイザヤと同じ艦に乗り込むクロトだが、イザヤの前では彼女を守るために軍人になったとは言わず、ごまかし、不遜な態度をとる。そんな、不愛想で自信家なクロトだが、船員は家族だと言うイザヤが醸成する「伊吹」の一風変わった空気の中で過ごすうちで、徐々に態度が軟化していく。船内でラブコメタッチの描写で振り回されるクロトの高慢な態度も可愛げがあり、この戦争の中の一時的な平穏をかけがえのないもののように感じさせる。

魅力③政治描写

 そして、クロト達の祖国「日之雄帝国」と大公洋を挟んだ先にある大国「ガメリア合衆国」との戦争ははじめに述べたように「太平洋戦争」をモチーフにしている。その字面から想像できるように「日之雄」は「日本」、「ガメリア」は「アメリカ」をモチーフにした国家であり、日之雄とガメリアの国力差は歴然としている。クロトの発案する作戦によってイザヤ艦隊は次々に戦果を挙げていくものの、クロト達が足掻いて局地戦に勝っても国力の差はそうそう埋まらない。むしろ、日之雄側は徐々に人材を消耗していき、継戦能力が削られていく。
 そのため、日之雄、クロトとしてはどうやって「戦争の終わせるか」を探っていく必要がある。既刊4巻時点では、ガメリアの親玉である男カイトの下にスパイを潜らせることに成功し、騙し合いの外交が物語の盛り上がりの一端を担っている。現時点でクロトが自ら政治力を発揮して活躍する場面は少ないが物語の完結に向かって、どのようにイザヤを守り、日之雄を救うのか今後の展開も期待ができる。


次巻8月に刊行される5巻でこのシリーズは完結を迎える。
クロトとイザヤの戦いの結末がどこに向かうのか、発売を楽しみに期待したい。
そして、あわよくば映像化もお願いします。

今日の一枚

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