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乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… ーゲーム世界に転生する特異な異世界転生ものー

乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…
通称「はめふら」は乙女ゲーム「FORTUNE LOVER」の悪役令嬢カタリナに転生した主人公が、ゲームでどのルートでも訪れるカタリナの"破滅フラグ"を回避するために奮闘する物語である。
いわゆる、なろう系の異世界転生ものと呼ばれるアニメである。

なろう系≒異世界転生もの

なろう系アニメとは、「小説家になろう」というWebサイト発の原作であることを示しており、原作メディアに由来してつけられるジャンルである。
このなろう系では、コンテンツの消費スピードが他媒体に比べて非常に早いため、物語の内容も分かりやすいものが流行する特徴がある。中でも交通事故などで死んでしまった主人公が異世界に転生し、前世での知識を活かして大活躍する異世界転生ものの作品が多い。
転生する異世界は、RPGの中世ファンタジーを意識した世界が定番であり、ステータスやジョブ、ギルドなどが存在しゲーム的な要素を想起させる世界観になっているが、特別何かのゲームの世界であるという設定はない。
一方、本作では「FORTUNE LOVER」という特定のゲーム世界であることを明言しており、従来の異世界転生ものと様相が違っていることがうかがえる。

破滅フラグ回避 = カタリナの目的

冒頭で少しもふれたようにカタリナは「FORTUNE LOVER」においてゲームの主人公の敵役である。ゲームではどのルートに進んでも国外追放や、死亡など悲惨な結末を迎える役回りとなっている。
前世の記憶により破滅の未来を知りそれを回避するというのは、これまでの異世界転生ものの定型に沿ったものとなっている。さらにこの前世での知識はそのまま目的にもつながっており、物語の動線が見通しやすくなっている。

乙女ゲームのリアリティ

加えて、転生する世界を"乙女ゲーム"とすることで、むしろゲーム的な要素を排している点が面白い。
これまでの異世界転生ものは、剣と魔法があり、魔物と戦うRPGが根底にあった。これらのRPGは戦闘によるゲームの駆け引きがあり、それらを支えるシステム、ステータスがある。なろう系の作品では分かりやすさが重視されるため、それらのゲームシステムもそのまま流用して世界観を構築してきた。そのため、転生先の異世界はゲームの"作られた"世界でもないにも関わらずゲーム感が見え隠れする世界になっていた。
一方、本作では乙女ゲーム恋愛シミュレーションというジャンルに属するゲームに転生している。恋愛シミュレーションというジャンルはゲームを通して恋愛を疑似体験することが目的のゲームである。
RPGなどの敵と戦うジャンルではゲームは、敵との駆け引きがゲームの没入感を生み、面白さの核となる。対して、恋愛シミュレーションの場合はキャラクターや世界観に存在感を持たせ、プレイヤーにキャラクターがその世界に生きていると感じさせることで没入感を生ませる。
そのため、転生先を乙女ゲームとした本作においては、ゲーム的な"作られた"世界を感じさせる要素が排除されるのも必然なのである。

そして、前世への決別

そして、これはこれまでの設定との繋がりはないのだが、前世との決別シーンがあるのが興味深い。
物語の終盤で、カタリナは永遠に眠り続ける魔法にかけられる。このとき、カタリナは前世の平和な世界で穏やかな生きている夢を見る。この窮地をカタリナは平和な前世の世界と今生きている「FORTUNE LOVER」の世界を天秤にかけたうえで、今の世界を選び取ることで目覚める。
このシーンは交通事故により突然去ることになってしまった前世に対して、気持ちの整理をつけて決別を意味するシーンである。それと同時にカタリナ自身が「FORTUNE LOVER」の世界で生きてきた時間を肯定するシーンであり、視聴者と積み重ねた作品内の時間を肯定していることでもあり、物語終盤らしいカタルシスが生まれている。
偶然にも同時期に放送されていた、なろう系異世界転生ものアニメの「本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜」でも似たようなシーンが最終回で描かれる。これもまた締めくくりにふさわしい印象深いシーンに仕上がっている。


以上のように、本作「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」はなろう系アニメのお約束を踏襲しながらも、見通しのよい実直な作品に仕上がっている。
これまでなろう系アニメに抵抗感があった人も一見してみてはいかがだろうか。

今日の一枚

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